格上げ発効から約2週間、外国人の売り越しは続いている
2026年9月21日、指数算出大手のFTSE Russellは、ベトナム株式市場を「フロンティア市場」から「二次新興国市場(Secondary Emerging)」へ再分類し、これが発効しました。新興国向けの指数にベトナム株が組み入れられる初めての節目です。
「格上げ=海外資金の流入」というイメージで語られることの多いテーマですが、当サイトが日々記録している市況データを見ると、発効日から10月6日までに記録した11営業日のうち、外国人投資家がホーチミン証券取引所(HOSE)で買い越したのは1日だけでした。
本稿では、指数の格上げで何が起きるのかという仕組みを公式資料と報道をもとに整理し、そのうえで格上げ前後の外国人の売買を日次データで並べます。将来の資金の動きや株価を予想するものではなく、2026年10月6日時点で確認できる事実の整理である点をあらかじめお断りします。
指数の格上げで何が起きるのか
発表から発効まで、組入れは4段階
FTSE Russellは2025年10月7日、ベトナムを2026年9月21日付で二次新興国市場へ再分類すると発表しました。ただしこの時点では、海外の大手証券会社(グローバル・ブローカー)を通じた取引が可能になるかを確かめる「2026年3月の中間審査」が条件とされていました。2026年4月7日、FTSE Russellは中間審査の結果として格上げを確定し、外国機関投資家に対する事前資金拠出(プレファンディング)の撤廃や、決済不履行の処理手続きの整備を評価したと公表しています。FTSE RussellのFAQは、財務省の通達08/2026/TT-BTCによるグローバル・ブローカー・モデルの整備にも触れています。
FAQによると、FTSEのグローバル株式指数シリーズ(GEIS)への組入れは、一度ではなく4段階で行われます。
| 段階 | 実施日(取引開始時点から有効) | 追加される比率 | 累計 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 2026年9月21日 | 10% | 10% |
| 第2段階 | 2027年3月22日 | 20% | 30% |
| 第3段階 | 2027年6月21日 | 35% | 65% |
| 第4段階 | 2027年9月20日 | 35% | 100% |
FTSE Russellは、各段階のあとに指数連動ファンドが変更に対応できたかを評価してから次の段階に進むとしています。対象は27銘柄(大型3・中型3・小型21)で、すべてHOSE上場です。同じFAQの試算(8月21日終値ベース)では、「FTSE Emerging Index」に占めるベトナムの比重は第1段階で0.0310%、全段階完了時で0.3089%です。
一方、ベトナムはこれまで属していた「FTSEフロンティア指数シリーズ」からは、2026年9月の年次見直しにあわせて一度に除外されます。新興国側への組入れは段階的、フロンティア側からの除外は一括という時間差がある点が、資金の流れを見るうえで重要になります。
パッシブ資金とアクティブ資金
指数に連動するパッシブファンド(ETFなど)は、指数の構成比に合わせて機械的に売買します。指数の変更は9月21日(月)の取引開始時点から有効となるため、その直前の営業日にあたる9月18日(金)について、CafeFは新興国ETFが第1段階の資金を投じ、売買が終値を決めるATC(引けの板寄せ)に集中したと報じています。
規模については、証券各社が試算を出しています。VnEconomyによると、Yuanta証券は7月31日時点のデータをもとに、第1段階の流入を約1億5,000万ドル、全4段階の合計を約15億ドルと試算しました。Vietstockは、ベトナム証券業協会(VASB)の報告書でBIDV証券(BSC)がパッシブ資金の流入額を15億〜20億ドルと試算したことを紹介し、直近8か月の1日平均売買代金(約10.1億ドル)と比べると2営業日分に満たない規模だと伝えています。いずれも各社の前提に基づく試算値です。
アクティブ運用のファンドは、指数に入ったからといって買う義務はありません。VnEconomyは、格上げという出来事そのものが国際資本の行動を変えるわけではなく、資産の性質がファンドの方針に合うか、地域内でほかの市場と比べてどうか、企業統治が信頼できるかによって判断されると伝えています。
逆方向の動きもあります。CafeFは発効直後の売り越しについて、段階的に入るパッシブ資金とは別に既存の外国人投資家の売りが続きうること、その中にはフロンティア市場に投資するファンドの資金引き揚げの可能性も含まれることを報じています。同紙はまた、過去に新興・フロンティア市場へ資金が大きく流入した局面では、世界経済の好調とドル安の局面が重なっていたと伝えています。
外国人保有制限(FOL)と「残り枠」
FTSE Russellは、ベトナム株について外国人が保有できる残り枠(foreign headroom)も審査すると明記しています。VnEconomyによると、外国人保有上限は企業によって異なり(同紙の例では49%や、商業銀行で約22.5%)、新たに指数へ組み入れられるには、上限に対する残り枠が20%以上必要です。上限49%の企業なら、発行済み株式の約9.8%分の残り枠が必要になる計算ですが、同紙は上限49%で残り枠が約0.1%しかなかった例を紹介し、時価総額の大きさと、外国人が実際に投資できる量は一致しないと指摘しています。同紙は、残り枠を浮動株比率や流動性と並ぶ選定条件の一つとして挙げています。
当サイトの日次記録で見る外国人の売買
以下は、当サイトの市況記事に記録した外国人投資家のHOSEでの純売買(買い越しはプラス、売り越しはマイナス、単位:十億ドン)とVN-Indexの終値を集計したものです。対象は2026年6月23日〜10月6日のうち記録のある71営業日で、Vietstock・CafeFの日次集計に基づく概算値です。9月10日と9月28日は市況データ(終値・外国人売買)の記録がないため集計に含まれていません。大口(相対)取引による売買も含みます。
期間別に見る
| 期間 | 記録日数 | 外国人 純売買合計 | 買い越した日数 | VN-Index終値(初日→最終日) |
|---|---|---|---|---|
| 6月23日〜8月20日(構成銘柄の公表前) | 43 | −15,833 | 11 | 1,869.04 → 1,734.24 |
| 8月21日〜9月18日(公表日から発効直前まで) | 17 | +206 | 10 | 1,768.12 → 1,815.66 |
| 9月21日〜10月6日(発効後) | 11 | −10,464 | 1 | 1,799.67 → 1,759.08 |
FTSE Russellは9月見直しの結果を8月21日(金)に公表しています(FAQによる)。
週ごとに見る(8月中旬以降)
| 週 | 記録日数 | 外国人 純売買合計 | 買い越した日数 | 週の最終記録日の終値 |
|---|---|---|---|---|
| 8月10日〜14日 | 5 | −2,180 | 1 | 1,729.08 |
| 8月17日〜21日 | 5 | −2,597 | 1 | 1,768.12 |
| 8月24日〜28日 | 5 | +953 | 4 | 1,832.12 |
| 9月3日〜4日(8月31日〜9月2日は休場) | 2 | −1,436 | 1 | 1,853.08 |
| 9月7日〜11日(10日は未記録) | 4 | −2,003 | 0 | 1,795.21 |
| 9月14日〜18日 | 5 | +2,653 | 4 | 1,815.66 |
| 9月21日〜25日 | 5 | −2,827 | 1 | 1,785.11 |
| 9月29日〜10月2日(28日は未記録) | 4 | −4,630 | 0 | 1,737.71 |
| 10月5日〜6日 | 2 | −3,007 | 0 | 1,759.08 |
データから読み取れる事実
公表前は売り越しが中心でした。 6月23日〜8月20日の43営業日のうち買い越しは11日で、合計は約15.8兆ドンの売り越しです。これは格上げに限らない長い流れの一部で、CafeFは2026年の外国人の売り越しが9月上旬時点で91兆ドン近くに達したと報じています。Vietcap証券の集計(CafeF報道)では、外国人は9月まで9か月連続で売り越し、1〜9月の累計はベトナム株式市場全体で約38億ドルの売り越しです。
公表から発効直前までは、ほぼ均衡しました。 8月21日〜9月18日の合計は約2,060億ドンの買い越しで、17日中10日が買い越しでした。特に発効直前の9月14日〜18日の週は4日が買い越しで、9月18日だけで約1兆2,620億ドンの買い越しとなりました。これが前述の新興国ETFによる引けの売買が報じられた日です(9月18日の市況)。
発効後は、記録した11日中10日が売り越しでした。 合計は約10.5兆ドンの売り越しです。当サイトが記録できなかった9月28日を含む9月28日〜10月2日の週について、Vietstockの週次集計はHOSEで約4.9兆ドンの売り越しとしています(10月3日の記事)。月単位では、Vietcapの集計で9月のHOSEの売り越しは約1億8,580万ドルでした。
データを読むときの注意点
第一に、期間が短いことです。今回のデータは4段階のうち第1段階の前後だけを切り出したもので、第1段階で反映された比率は全体の10%です。FTSEの試算でも、第1段階時点のFTSE Emerging Indexにおけるベトナムの比重は0.0310%にとどまります。発効後約2週間のデータは、格上げの影響全体を表すものではありません。
第二に、個別の事情が合計を大きく動かしている日があることです。10月2日は宝飾大手PNJの1銘柄だけで約1兆2,640億ドン、10月6日はHDBankの大口取引を中心にHDBの1銘柄だけで約1兆9,580億ドンの売り越しが記録されました(10月2日の市況、10月6日の市況)。指数組入れとは別の要因による売買も、日次の合計にはそのまま含まれます。
第三に、数値は集計元によって異なることです。たとえば10月6日は、HOSEでの売り越しが約2兆7,280億ドン、別の集計では3市場合計で約2兆6,130億ドンと報じられました。本稿の表は傾向をつかむための概算であり、正確な数値はHOSEや各集計元の公表値をご確認ください。
第四に、外国人の売買は格上げ以外の要因も受けます。前述のとおり、フロンティア市場向けファンドの資金引き揚げの可能性や、世界経済・為替の環境も指摘されています。また、Vietstockは、もう一つの大手指数会社MSCIの基準への到達に向けた課題として、業界団体ASIFMAとKPMGによる2026年の調査が挙げた法制度上の制約、法執行の公平性・透明性、レポ市場の不在を紹介しています。
まとめ
- FTSE Russellによるベトナムの二次新興国市場への格上げは2026年9月21日に発効し、組入れは2027年9月20日まで4段階で進みます。第1段階で反映されたのは10%です。
- 第1段階では、発効直前の9月18日に新興国ETFの引けでの売買が報じられ、当日の外国人はHOSEで約1兆2,620億ドンの買い越しでした。
- 一方、フロンティア指数からの除外は一括で行われ、外国人保有の残り枠の制約もあります。
- 当サイトの記録では、外国人の売り越しは公表前から続いており、公表から発効直前までは均衡に近づき、発効後は再び売り越しが中心となりました。
格上げは段階的に進む制度上の手続きであり、資金の動きは指数の仕組み、各ファンドの判断、世界的な環境など複数の要因が重なって現れます。当サイトでは今後も、各段階の実施日前後を含めて日々の外国人の売買を市況記事で記録していきます。
出典
- FTSE Russell announces results of September 2025 semi-annual country classification review for equities and fixed income
- FTSE Russell announces results of March 2026 semi-annual country classification review for equities and fixed income
- Reclassification of Vietnam from Frontier to Secondary Emerging Market Status - Frequently Asked Questions (v1.3, August 2026)
- Vietnam's stock market officially upgraded to secondary emerging market
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